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福岡高等裁判所 昭和30年(ラ)26号 決定

抗告人 松田善博(仮名)

右法定代理人親権者父 松田一次(仮名)

同毋 松田菊子(仮名)

右代理人弁護士 矢崎一郎(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、「抗告人は生後一年位より病弱となつたので、抗告人の両親が、これを心配して姓名判断によつて、抗告人の名の「善博」を「健司」と改名させ、爾来それを通称として使用して来たので、現在では隣人知人共通称の「健司」を本名だと信じている。したがつて、姓名判断に基いて名を変更することが正当の事由にならないとしても、今日迄の間長きに亘り通名を使用してきたのに、今更通名を廃して本名を使用することは抗告人の耐え難いところであり、抗告人の生活関係に多大の不便不利を与えるものであるから、本件名の変更は許可さるべきもので、原審判は取消を免れない。」というにある。

しかし、姓名判断に基いて、名を変更することは戸籍法第百七条第二項にいわゆる正当な事由に該当しないものと解するのが相当である。もつとも、姓名判断に基いて、通称を使用するに至つた場合でも、戸籍上の名を通称どおり変更しなければ、社会生活上に甚しい支障を生ずる場合には、名の変更の正当事由に当るということができるが、原決定の説示にもあるとおり、抗告人は本年小学校に入学したばかりの少年で本件通称を使用した期間も僅かに六年に過ぎないのであるから、名の変更をしなければその社会生活上に特に甚しい差支えをきたすものとは考えられないので、本件抗告理由に主張する事実は、いわゆる名を変更するについて、正当の事由ある場合に該当するものとは認められない。記録を精査するも原審判に何等の違法はなく抗告人の申立を却下した原審判は正当で、本件抗告は理由がない。よつて、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二十五条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 二階信一 裁判官 秦亘)

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